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    憲法改正の非現実味

    2017 - 07/24 [Mon] - 19:10

    9条加憲でも「自衛隊」の3文字が書けない理由

    編集委員 清水真人

    2017/7/18 6:30日本経済新聞 電子版

    首相の安倍晋三が打ち出した憲法9条への加憲案。今の1項、2項を残したまま「自衛隊の存在をしっかりと位置づける」などとしている。自衛隊の「現状追認」が目的だと自民党内では受け止められているが、そんな一筋縄ではいきそうもない。固有名詞の「自衛隊」を憲法に明記するのは適切ではない、などの異論が、意外にも改憲容認論に立つ専門家からも出始めた。

    意見

    ■ 合憲化だけなら明記不要

    衆院議長の大島理森は最近、東大名誉教授の佐々木毅ら1票の格差是正策を答申した衆院選挙制度調査会の有識者委員らと会食した。

    「天皇退位立法のように、安倍提案を衆参正副議長で引き取って、国会主導で仕切り直してはどうか」「国会が改憲に取り組むなら、まず最高裁が求めた参院の選挙制度改革など足元の二院制の改革が優先だ」などの声が相次いだという。

    安倍は6月24日、神戸市で講演して「きたるべき臨時国会が終わる前に、衆参両院の憲法審査会に自民党の改正案を提出したい」と年内の改憲案提出を表明した。自民党は9条加憲、教育無償化、緊急事態条項、参院改革の4項目で改憲原案の検討に着手し、他党も対応を急ぐ。

    6月14日、日本維新の会は、憲法改正調査会の会合に九州大准教授の井上武史(憲法学)を講師として招いた。

    井上は統治機構の合理的な改革を進めるための改憲論議を唱える立場だが、安倍提案の核心部である9条加憲には、こう疑問を呈した。

    「どんな条文を設けるかはどんな政策を実現するかに依存する。だから、政治家はまず改憲の明確な政策目標を設定すべきだ。条文の文言をどう書くかは専門家の意見を聞けば良い。単に自衛隊への違憲の疑義を払拭するのと、自衛隊に憲法上の根拠を与えるのでは意味が違う」

    5月3日の憲法記念日に改憲派の集会に宛てた安倍のメッセージ。「自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきだ」とか「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」と表明した。同日付の読売新聞のインタビューでは「自衛隊の記述を書き加える」「自衛隊を合憲化する」と唱えた。

    井上によれば、単に「違憲論の余地をなくす」「合憲化する」のと、自衛隊を「明文で書き込む」「憲法に位置づける」のでは次元が異なる。違憲の疑い解消だけなら「これまでの憲法解釈の法理を明文化すれば十分で、あえて『自衛隊』と憲法に書き込む必然性はない」と指摘する。例えば、自衛隊法をベースにすれば「新9条の2」はこんな条文が考えられるという。

    「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つために必要な実力部隊を法律で設置することを妨げない」

    ■ 国会・内閣・最高裁と同格に?

    井上はむしろ固有名詞の「自衛隊」を憲法の条文に書き込むことは「理論的には難しい」とみる。

    統治機構の中で、憲法に書かれている組織は国会(衆院、参院)、内閣、最高裁などの裁判所と会計検査院に限られる。「自衛隊」を明記すれば、これらと並んで「憲法上の組織として位置づけられ、極めて正統性の高い国家組織になる。違憲論を封じる手段としては過剰かもしれない」と慎重論を説く。

    自衛隊を管理・運営する防衛省は国家行政組織法と防衛省設置法で規定され、憲法上の機関ではない。井上は、自衛隊だけを憲法に明記すれば、「現状追認」どころかバランスを失して「組織上の独立性や固有の権限を認める根拠にもなりかねない」と危ぶむ。憲法条文では「実力部隊」「実力組織」など一般名詞にとどめ、自衛隊は「法律で設置する」趣旨をはっきりさせるのが望ましいと強調する。

    「自衛隊を憲法にしっかり位置づけ、合憲か違憲かという議論を終わりにしなければならない。現在の9条1項、2項はそのまま残しながら、自衛隊の意義と役割を憲法に書き込む改正案を検討する」

    6月24日の講演で、このように自衛隊を合憲化したうえで、その「意義と役割」を憲法に書き込むのだ、と微妙に言い回しを変えた安倍。

    「自衛隊」の3文字を憲法の条文に明記することにどこまでこだわっているかはっきりしない。このように、「改憲の政策目標」は曖昧だ。

    自民党副総裁の高村正彦は6月20日の党のインターネット番組で「自衛隊が違憲かどうかの神学論争に終止符を打ちたいが、集団的自衛権を限定容認する憲法解釈を巡る神学論争には終止符を打たない」と述べた。

    党憲法改正推進本部長の保岡興治も同12日の本部会合で「9条を巡る政府の憲法解釈を1ミリも動かさずに自衛隊を明確に位置づける」と力説した。

    いずれも「現状追認」が狙いとの立場だ。

    仮に、それを額面通り受け止めるとしても、「9条の2」の一文を加筆すれば、それで済むのか。

    現状の安倍加憲提案には強く反対する東大教授の石川健治(憲法学)はこう批判する。

    「9条の2だけで問題は解決しない。憲法の色々な箇所に影響が出てくるはずで、そこだけ変えるなど本来、ありえない。憲法で自衛隊に正統性を付与すれば、これまで正統性を剥奪することによって機能してきた9条による権力統制は効かなくなる。ならば、9条方式より優れた代案を改憲派は出せるのか」

    ■ 文民統制の枠組み不可欠

    例えば、自衛隊を自衛権行使に制約のない「国防軍」に衣替えするとした2012年の自民党改憲草案では「首相を最高指揮官とする」ことを明記した。任務を遂行する際は「国会の承認その他の統制に服する」など文民統制(シビリアン・コントロール)の規定も置いた。ならば、「9条の2」でも国会や内閣による自衛隊への統制を併せて書き込むことが課題になるはずだ。

    憲法73条は内閣の権能として国務の総理、法律の執行、外交関係の処理、予算の作成などを列挙するが、「国の防衛」や自衛隊の統制は書かれていない。これも放置してよいのか。

    自民党改憲草案は軍人の職務遂行上の犯罪は「軍事審判所」(軍法会議)を設けて裁く、とした。ここに踏み込むなら「特別裁判所は、これを設置することができない」とする憲法76条2項との兼ね合いも避けて通れない。

    このように、自衛隊に憲法上の正統性を明文で与えるなら、それに見合う統制の枠組みも明記しなければ、「統制規範が何もない状態で自衛隊を書き込む最悪の改憲提案」(石川)と言われかねない。「9条の2」加憲は内閣や国会、司法といった統治機構全般にわたる憲法条文の見直しにつながる広がりと深さを持ちうるのに、「現状追認」論を決め込む首相官邸や自民党にその構えは見て取れない。

    改憲容認派でも反対派でも、専門家のいら立ちは共通だ。

    安倍提案が生煮えなうえ、自民党からも骨太な統治機構論や、専門家の緻密な立法技術論に耳を傾ける機運が出てこないこと。つまり、改憲論議の「作法」や「心得」(京都大名誉教授の大石眞)が政治の現場に備わっているのか、との問いだ。

    「現状追認」だからとむやみに急げば、改憲そのものが自己目的化しているからだ、と疑いを招く。

    自民党案提出に前のめりの安倍への懸念を大島にぶつけ、国会主導を求めたのも、政治学や憲法学の専門家たちだ。

    天皇退位に関する皇室典範特例法は、安倍内閣主導に衆参正副議長が待ったをかけ、内閣と国会が非公式に事前調整する異例の手順を踏んだ。

    改憲の発議権はそもそも国会にあるが、井上は「行政に関わる改憲なら、国会は内閣と協働して議論を進めるのが望ましい」と退位立法モデルの踏襲を訴える。=敬称略


    ■ 憲法第九条 ■
    (1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
    (2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
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