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    キャッシュレス社会で米国の先を行くインド

    2017 - 03/30 [Thu] - 21:23

    キャッシュレス社会で米国の先を行くインド

    By Vivek Wadhwa
    米カーネギーメロン大学シリコンバレー校フェロー、米デューク大学起業・研究商用化センター研究担当ディレクター

    2017/1/27 6:30 日経新聞記事
    VentureBeat 原文
    最新テクノロジーを扱う米国のオンラインメディア「ベンチャービート」から転載

     10年前のインドは大きな問題を抱えていた。国民の半数近くが何の身分証明書も持っていなかったのだ。病院や行政サービスのない村で生まれれば、出生証明を得られない。自分の身元を証明できなければ、銀行口座を開けず、融資を受けられず、保険にも入れない。社会の陰で暮らし、納税もしない非公式経済に属する運命にあるのだ。

    ■国民11億人を管理

     インド政府は2009年、この問題を解決する大型プロジェクト「アドハー」を発足させた。個人の指紋や網膜のスキャンに基づいて全ての国民にデジタルIDを付与するこのプロジェクトは、16年の時点で11億人に12ケタのID番号を発行している。これは世界最大かつ最も成功したIT(情報技術)プロジェクトであり、デジタル経済の土台になっている。

     インドの次の課題は、全ての国民に銀行口座を与えることだった。政府は11の事業体に対し、預金は可能だが貸し出しはできない決済銀行の設立を承認。各行は国民に口座開設を促すために、無料の生命保険が付いた口座を提供し、社会福祉給付がこの口座に振り込まれるようにした。決済銀行の設立から3年足らずで口座数は2億7000万を超え、預金額は100億ドルに達した。

     政府はさらに、アドハー番号など単一の識別子に基づいて銀行同士が直接決済できるシステム「統合決裁インターフェース(UPI)」をスタートした。

     例えば、クレジットカードの支払いプロセスについて考えてみよう。買い物客が店舗でクレジットカードを出すと、店員は客のサインを確認し、ビザやアメリカン・エキスプレス、マスターカードなど請求書を処理するカード会社にカード情報を送る。各社は送金・受取銀行と提携しており、保管銀行や清算機関の役割を担う。このサービスの対価として店舗に決済額の2~3%の手数料を課し、これが顧客に間接的に転嫁される税となる。

     だが、UPIのようなシステムを使えば、請求書を処理する会社は不要になり、決済コストはゼロに近づく。携帯電話と個人のID番号がクレジットカードに代わる認証要素になるからだ。無料のアプリをダウンロードして自分のID番号と銀行の暗証番号を入力するだけで、すぐにどの銀行にも送金できるようになる。

     米国でのUPI利用を妨げる技術的障害はない。送金は数秒で実行され、仮想通貨ビットコインの10分よりも短時間で済む。

    ■日常の手続きが格段に楽に

     インドはつい先日、別の革新的なシステム「インディア・スタック」の運用も開始した。これは複数のシステムが相互接続された安全性の高いデジタルインフラで、国民は住所や銀行の取引明細、診療記録、職歴、納税申告などの個人データを保管・共有できる。利用者はどの情報を誰に共有するかを管理し、生体認証を使って電子署名を行う。

     携帯電話のアカウント開設を例に挙げよう。通信会社は利用者のIDと信用履歴を確認しなくてはならないので、これはどの国でも煩雑な手続きだ。インドでは、政府が求める書類を全て用意するのに数日かかることも多い。だが、インディア・スタックの一環である新しい「本人確認」手続きを使えば、親指の指紋か網膜をスキャンするだけで本人確認は完了し、数分でアカウントが開設される。診療履歴でも同じだ。必要に応じて医者や診療所と履歴を共有できる状況を想像してほしい。これは米国でも可能なはずだが、信頼できる中央当局が取り組んでいないので実現していない。

     インディア・スタックは融資方法も変えるだろう。現時点では、一般的な農村部の住民は信用履歴や確かな認証情報がないため、零細事業のための融資を受けられない。だが今後は、銀行の取引明細や公共料金の支払い、生命保険証書などの情報を自分のデジタルロッカーから取り出せば、認証データに基づいて融資がほぼ瞬時に承認されるようになる。これは米企業が使っている信用評価サービスよりもオープンな制度だ。

     インドのモディ首相は昨年11月、腐敗や偽札への対策として五百ルピー札と千ルピー札を全て廃止すると発表し、国内に衝撃を与えた。廃止された紙幣の総額は流通している通貨全体の約86%に及ぶ。この動きはインド経済を混乱に陥れ、苦痛をもたらし、広く批判された。それでも、長期的には確実にメリットをもたらす英断だった。デジタル通貨の促進とインド経済の近代化を加速させるからだ。

     ノーベル賞を受賞した米経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏は1月、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムで、「メリットがコストを上回る」ため、モディ氏が進める通貨の段階的廃止とデジタル経済への移行に米国も追随すべきだと指摘した。米国をはじめ世界中で問題となっている格差と腐敗についての話題では「米国のような国はデジタル通貨に移行できるし、そうすべきだと固く信じている。そうすればこの種の腐敗を追跡できるようになる。プライバシーとサイバーセキュリティーという重要な問題はあるが、大きなメリットがあるのは確かだ」と強調した。

     米国はまだキャッシュレス社会には移行できないが、シリコンバレーや国が発展途上国から学べることは多くある。

    By Vivek Wadhwa
    米カーネギーメロン大学シリコンバレー校フェロー、米デューク大学起業・研究商用化センター研究担当ディレクター

    最新テクノロジーを扱う米国のオンラインメディア「ベンチャービート」から転載

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